Interview & Text by 真保みゆき

沢田:知り合って、本当に長いね。

美由紀:もう11年くらいになりますよね。2003年に出した『Wild & Gentle』で数曲をショーロクラブにプロデュースしていただいて以来のおつきあいだから。私が30過ぎ。沢田さんも40代だった。

沢田:そんな経つんや(笑)。その頃から、いい歌手やなと思ってはいたんやけど、いつやったけな?沖縄の桜坂劇場、あそこの裏の居酒屋で打ち上げやった時、あなたが僕の大好きな美空ひばりの「津軽のふるさと」を、ジュークボックスに合わせて歌った。それがめちゃくちゃ良くて・・・いつの日か、日本の歌謡曲や演歌を歌ったら絶対合う。この人なら歌える、と思ってたんです。

―『Wild & Gentle』発表時、美由紀さんが日本の歌謡曲を歌うというイメージはほとんどなかったと思うんですが。

沢田:ポップスを歌ってはいるけど、この人の歌には独特のこぶしがあるんですよ。日本人にしか出せないこぶし。なんとも心地よい、かゆいところに手が届きそうで届かない感じの・・・。

美由紀:だめじゃないですか(笑)

沢田:いや、直球過ぎないところがいいのよ。す~っと回り込んできて、タッチしたと思ったら、またす~っと引いていく。で、次またす~っと。引き込まれますよ。ついつい聞き込んでしまう。今回のアルバムでそれが特に発揮されたね。僕が期待していた以上やった。作り終えて、びっくりしてます。

美由紀:ありがとうございます。

沢田:自分がプロデュースしたからって、おべんちゃら言うてるやなしにね(笑)。

美由紀:でも本当に、すべてのテイクがミラクルでしたね。

沢田:すべてプラスに働いた。

美由紀:当初“演歌・歌謡曲のカヴァー・アルバムをやりませんか”とスタッフから打診を受けた時点で、“沢田さんと作れるのならぜひ”と即答したんです。逆に言うと、沢田さんのスケジュールが合わなかったら、この企画は実現しなかったと思う。

沢田:僕、もともと歌謡曲オタクなんですよ(笑)。ショーロクラブをやってるせいで、ブラジル音楽とか、あと変なインストやってる人というイメージが強いかもしれんけど。実はカラオケで歌うのも大好き。西田佐知子、ちあきなおみ、あと島倉千代子ね(笑)。民謡も好きやし。日本人が持っているアイデンティティには、とくかくこだわってる。

美由紀:歌詞の話は、たくさんしましたよね。

沢田:僕自身、詞を聞いて、そこからイメージをふくらませてアレンジしていったから、演奏する人たちにも、何はさておき詞を大切にしながら弾いてもらいたかったんです。録音している時も、“やばいでこの詞は”みたいな話をしょっちゅうしていた。

美由紀:詞の話をすること自体がディレクションになっていたんでしょうね。歌っていても、1曲1曲、どの演奏も貴重な贈り物というか、“この曲って、こんな側面があるんだ”って。
歌を女性にたとえるのなら、こんなドレスも似合うんだ、って感じ。発見の連続でした。

― 全曲、一発録りだったそうですが、緊張しませんでしたか?

美由紀:歌はあくまで仮歌。録れるようだったら録ればいい、と沢田さんからは言われていたんですよね。

― じゃあ、一発録りでやりましょう、という風には。

沢田:言っていなかった。事前のリハも一切なし。

美由紀:普通、デモ・テープくらいはもらいますよね。

沢田:それでも僕としては、“いやいや絶対一発でいい歌来るで~”と確信していたんです。まじで、オケより先に歌のオッケーが出ました(笑)。

美由紀:いざ歌い始めてみたら、アレンジとバンドの皆様の演奏に導かれるように、“この曲もOK”“この歌も、これ以上のテイクはない”。その連続だったんです。もし最初から、“一発で録る”と言われてたら、変なりきみや緊張が入って、絶対うまくいかなったと思う。

沢田:どの曲も、僕があらかじめイメージしていたとおり。それどころか、それを上回る歌であり、演奏になってくれたんです。ちあきなおみさんの「紅い花」の終わり方とかね。

美由紀:はかなく終わっていく、あの感じ、ね。

沢田:“今日も消える夢ひとつ”という歌詞のイメージ通り、さりげなくす~っと終わっていく。だからこそ、せつないという。

美由紀:歌いやすいというと語弊があるけど、すごく世界に入りやすかった。何度でも歌いたくなるんです。

― 演奏の素晴らしさもさることながら、すぐれた歌手は演奏を束ねる力、磁場のような役割が備わっていると思うんですが。

沢田:(アルバムジャケットを指して)この人がいなかったら、何ひとつ成立しませんよ。すべてこの人ありき。ジャケットのこのおねえさんに、いつになったら会えるんやろ?
来週あたりですか?

美由紀:また、そんなこと言って(笑)。目の前にいるっつーの!(笑)

沢田:関西人やから、冗談言わないと落ち着かないんです(笑)いや、今回本当に素晴らしかったんですよ。今までも演奏者として何度も共演してきたけど、今度のはとにかく特別やった。

― 藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」や、美空ひばりの「悲しい酒」には、鬼気迫るものがありますよね。

沢田:実際“来て”たよね。だから僕は、演奏しながら、“戻っておいで。こっちに戻っておいでと、ず~っと気持ちを送っていたんです。歌いながら、“上”と通じている感じやったから。

美由紀:たしかに「悲しい酒」を歌ってた時、自分でもそういう感じがしたんですよ。歌っていて、自分が自分じゃないような。

― 一種、歌に“憑依”されているというか。

沢田:それ自体素晴らしいんだけど、でも物事にはやっぱりバランスというものがある。この人は“向こうの人”じゃないからね。今、この現実の中で歌っている人なんやから。“そこを超えたら危ないよ、戻っておいで~”と念じると、ちゃんと戻ってくるんです。

美由紀:これは私ひとりの話だったら、ただの気の迷いとも思えるんだけど、沢田さんもそう思ってくださって、守って下さってた。本当に感動ですよ。

沢田:色々と話してるうちに感じたもん。あなたはつくづくリスクを背負って歌っているんだと。

美由紀:泣けてきますよ。そんなこと言ってくださると。

― すぐれた表現者ほど、リスキーな場所に行きますよね。

沢田:そのディープさは、最初にショーロクラブで共演した時から感じてたから。怖いくらい、ディープな魂のレベルの表現ができる人なんですよ。彼女が書く詞もそう。すごく明るい詞が書けて、明るい歌い方ができる一方で、迷宮に落ちていくような怖さがある。そういう本質を、僕は彼女の歌に見ているんです。

美由紀:いいこと言ってくれる(笑)

沢田:それがわかるからこそ、心配にもなる。人として、この人が大好きやからね。逆を言えば、彼女の表現を守っていかなければならないと、お父さんのような心境になりました。(笑)

― そう思うと、曲順もバランスが取れていますね。行きっぱなしではない、ちゃんと帰ってこれる曲順。

沢田:曲順もこの人。そういう意味では、自分でちゃんとバランスを取ろうと

美由紀:やっぱり、聞いている人たちの歌でありたいものね。

NEXT