プロデュース&アレンジ
プロデュース&アレンジ:沢田穣治
ショーロクラブの活動をメインに、映画音楽、ダンス、沖縄島唄、J-POPアーティストのプロデュース& アレンジなど、多岐にわたる映像的な音楽制作を行う。音響系、ポップス系から現代音楽、そして マルコス・スザーノ、アート・リンゼイ、ジャキス・モレレンバウム、ジョイスといった海外のアーティストと の活動に至るまで、ジャンルにとらわれないスタイルは「沢田穣治音楽」として認知されている。畠山とは、 彼女のキャリアのスタートからライブやレコーディングで共演を重ね、2009年には沢田が音楽を担当した 長澤まさみの主演映画『群青愛が沈んだ海の色』の主題歌“星が咲いたよ”を共作。

*TRACK 07 & 08 はアレンジ笹子重治
TRACK 01はアレンジ沢田穣治&笹子重治

http://titialfa7.wix.com/jyojisawada 参加ミュージシャン:
沢田穣治(ベース他)・笹子重治(アレンジ/ギター)・
おおはた雄一(ギター)・秋岡欧(バンドリン)
芳垣安洋(ドラム)・鶴来正基(ピアノ)
井上“JUJU”博之(サックス他) 竹内直(サックス)
向島ゆり子(ヴァイオリン)・田中景子(ヴィオラ)
橋本歩(チェロ)

録音&ミックス:中村督(POTETO STUDIO)
マスタリング:オノセイゲン(SAIDERA P ARADISO)
写真:野村佐紀子
ヘアメイク:諏訪部留美(Air Notes)
スタイリスト:梅山弘子(KiKi)
アート・ディレクション&デザイン:野寺尚子(UltRA Graphics)

Text by 真保みゆき

 いつかこうした“日本の歌”のアルバムを、畠山美由紀なら作ってくれるだろうと思ってはいた。が、それがここまで突き抜けた1枚として、かたちになってしまうとは。正直、うれしい驚きでいっぱいでいる。

 全11曲中9曲までが、いわゆる演歌を含む日本の歌謡曲のカヴァー。といっても、今回のアルバムの冒頭を飾っている「シクラメンのかほり」をはじめとして、ライブでは日本の歌謡曲のカヴァーを、折にふれ取り上げてきた彼女。アルバム・コンセプトそのものに、とってつけたような意外性はない。それが日本語であろうと、外国語で書かれた歌詞であろうと、“その歌に最もふさわしい、発音と発声で歌っていきたい”、そう言葉にもし、実際有言実行してきてもいる歌い手なのだ。メロディーに負けず劣らず歌詞もまた多くの聞き手に愛され、口ずさまれてきた歌謡曲の名曲佳曲に、カヴァー・アルバムというかたちで正面きって取り組むこと自体、自然ななりゆきだったのだろう、とも思う。

 そんな彼女が、今回プロデューサー兼アレンジャーとしてタッグを組んだのが、ショーロクラブのベーシスト、沢田穣治。2003年に発売された畠山のセカンド・アルバム『Wild&Gentle』の一部を、ショーロクラブがプロデュースおよびバックアップ。以来長らく交流を続けてきた。

 「今回、スタッフから“演歌・歌謡曲のカヴァー・アルバムをやろう”と打診された時、“沢田さんと一緒に作れるなら...”と即答したんです。逆にいうと、沢田さんのスケジュールが合わなければ、このアルバムを作るのは難しいかな、とも思いました。」

 一方の沢田にとっても、畠山に“昭和の演歌や歌謡曲を歌ってほしい”というのは、以前からたっての希望だったそうだ。

 「初めて一緒にレコーディングしたときから、得も言われない深さ、ディープさが、彼女の歌声にはある、と感じていた。ただうまいというだけじゃない、歌詞の裏側にひそむ深淵のようなものを、的確につかみだして表現できる歌い手、というのかな。僕自身、実は大の歌謡曲ファン。それも詞にとことんこだわるほうやから、今回のようなアルバムを一緒に作れて、本当にうれしい」

 という一方で、レコーディングそのものは、どの曲もほぼ一発録り。畠山自身、スタジオ入りするまで、アレンジの全容を知らされていなかったというから驚くほかないが、日本語詞が広げる世界に互いに鋭く反応し合う、歌い手と演奏陣との“間合い”自体、素晴らしいの一言。ライブではすでになじみ深い、布施明「シクラメンのかほり」はもとより、原曲はシャンソンだという、ちあきなおみの「それぞれのテーブル」。やはりショーロクラブの秋岡欧が弾くバンドリンがせつせつとした哀愁をかきたてる、森昌子「越冬つばめ」など、当意即妙な演奏にもり立てられた、ニュアンスに富んだ歌表現の数々が並んでいる。

 「当初沢田さんは、“歌は録れたら録ればいい”とおっしゃっていたんです。もしそこで“歌も一緒に一発録りする”と言われていたら、変な力みや緊張が入って、うまくいかなかった気がする。普通は歌まで、同時に録音できないです。まして今回は、アレンジも知らない状態で歌うわけだから。でも、いざ歌い始めてみたら、アレンジとバンドの皆様に導かれるように、どの曲も“これ以上の歌は録れないかも”と思える出来で歌うことができて、結果全曲の一発録音がかなったんです。それくらい、沢田さんのアレンジといい、ミュージシャン全員の演奏といい、現場の雰囲気といい、なにもかもが1曲1曲の世界観に対して自然だったんです。どのアレンジも、歌う私にとっての“贈り物”みたいだった。演奏を通じて、“こんな世界もこの曲にはあったんだ”と気づかせてくれたんです」

 そう語る畠山だが、そうは言っても、故・藤圭子の畢生の名曲を歌った「圭子の夢は夜ひらく」のように、この世ならざる世界が一瞬かいま見えるような、鬼気迫る1曲も。

 「この曲と、美空ひばりさんの「悲しい酒」はたしかにそうでしたね。「圭子の夢は夜ひらく」では、巻き舌との感覚とか、原曲にかなり近く歌っているんです。「悲しい酒」は自分でいうのもなんだけど、(歌に)憑依されちゃっているのかな、と思う瞬間が、ままあった」(畠山)

 「僕にもそれがわかったから、一緒に演奏しながら、“戻っておいで”と、一心に念じていた。彼女の歌が素晴らしいのは、あっちの世界に行きっぱなしじゃなく、ちゃんと聞き手のいる“こちら”に帰って来れるところなんだから」(沢田)

 「演奏に守られていたんですよね。だから。私自身、歌い手としても、やっぱり聞いてくれる人たちと一緒にいたい、と思うんです」(畠山)

 歌い手としての、そうした得難いあり方を奇しくも捉えてみせたのが、今回のアルバム用に畠山自身が書き下ろした、アルバム表題曲ということになりそうだ。「歌で逢いましょう」。歌い手にとっての歌と、聞き手にとっての歌が1曲の中で邂逅する。せつなくもあたたかく、優しくも哀しい。歌手・畠山美由紀の“主題歌”のような曲だ。