<トラックリスト>
1,36-47
2,Matraca de Cordel
3,Bala Com Bala
4,Descompassamba
5,Not To Be Heard
6,Rock With You
7,Verso em No
8,Quiet Little Lady
9,Forro Brasil
10,Te Vira
一部のブラジル音楽ファンから非常に高い注目を集めているダニ・グルジェル(娘)とデボラ・グルジェル(母親)。
ダニは2007年に行ったライブ「ダニ・グルジェルと新しい作曲家達(ノーヴォス・コンポジトーレス)」以降、同世代の作曲家達の楽曲を積極的に録音。
またその作曲家達も楽曲を積極的にシェアし、ひとつの楽曲を複数アーティストがカヴァーしあうその広がり方は、かつてのボサノヴァムーブメントのようだったと指摘する評論家もいる。
そのムーブメントは日本ではノーヴォス・コンポジトーレスと呼ばれ、ダニはその象徴的な存在だ。
アルゼンチンやミナスの「クワイエットな音楽」ともリンクしている。
現在は「ムジカ・ヂ・グラッサ」という無料配信の動画と音楽サイトを運営し、サンパウロを中心とした有名無名問わないミュージシャン達が参加しオリジナル曲をレコーディングしている。
ダニの紹介者としての一面だ。これまでEP『Dani Gurgel』アルバム『Nosso』『Agora』『Viadutos』の3枚のアルバムと1枚のシングルを発表。
MPBにジャズやボサノヴァのアプローチを試みた作品と彼女の歌声は着実に日本のファンが増え続けている。
またダニはカメラマンとしても活躍しており、センスの良さは音楽にも反映されている。
ダニ自身の音楽性に深く影響を与えているのが母親であるデボラの存在。
これまでのダニの諸作では鍵盤奏者、アレンジャーとして参加していることはもちろんだが、ジアナ・ヴィスカルヂはじめ数々のプロアーティストが通っていたサンバジャズのジンボ・トリオが主宰している音楽学校CLAMで11年間教鞭を振るっていた。
これまでにも多数のレコーディングや音楽プロジェクトに関わりミュージシャンの信頼も厚い。
2011年に初のソロ『Debora Gurgel』を発表。そのアルバムでバックを務めていたのがダニのご主人であるチアゴ・ハベーロ(ds)とシヂエル・ヴィエイラ(b)。
一昨年のアルゼンチン、昨年のUSツアーを経てダニとデボラ、ぴったり息のあったチアゴ、シヂエルと結成されたのが、ダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートというわけだ。
本作はダニやデボラのこれまでの作品のようにMPBやブラジルの様々なリズムにジャズのハーモニー取り入れた手法を継承しながらも、よりジャズ度が増した内容になっている。
レコーディングは全編一発録音。スリリングな即興性も聴きどころのひとつだ。
あなたの感性にガツンとくるサウンドは、良い意味でリスナーの想像を超えた音作りになっている。
演奏している楽曲はダニとデボラ、チアゴによる自作曲の他に、同世代のノーヴォス・コンポジトーレスからファビオ・カドーレ、ギリェルメ・ヒベイロ。
昨年のUSツアーで披露されたMPBクラシックスのジョアン・ボスコによる「バラ・コン・バラ」、エルメート・パスコアールの「フォホー・ブラジル」。
マイケル・ジャクソンのヒット曲「ロック・ウィズ・ユー」まで多彩だ。しかしながら、卓越したアレンジと演奏で、アルバムタイトル通り「ひとつ」の音楽になっている。
「日本で演奏するのが夢だった」と語るダニ。国内盤がリリースされるのが遅過ぎたくらいだが、満を持しての登場がキャリア最高傑作といえる本作だ。
初来日公演も決まって、一日も早くダニ&デボラ・グルジェル・クアルテートのライブを観たいものだが、それまでは本作を繰り返し聴き、来るべきその日を待つことにしよう。
堀内隆志( café vivement dimanche )